暮らしのデザイン Vol.1 「古い道具と暮らす」

それぞれの性格を知って付き合う
~神戸 「北の椅子と」を訪ねて~

大英帝国が残してくれた魅力的な『アンティーク』を後にして会いに行ったのは、ミッドセンチュリー(20世紀中葉。1940年~1960年頃)と呼ばれる時代に生まれた『ヴィンテージ』たちです。この頃は、アーティストと職人達の聖域であった色や形が、生産性を考えた工業デザインへと移行する時代。試行錯誤が繰り返され、各地で多くの美しいデザインが生まれました。

そのお店は工場や倉庫が立ち並ぶ神戸市の和田岬にある『北の椅子と』。その名が表すとおり、北欧、中でもデンマークのヴィンテージ家具を多く扱うお店です。

赤い倉庫に設えられた木の大きな引き戸が印象的な外観。修理・修復を行う工房が併設されている。

店内は「北欧ヴィンテージ家具の森」。

決して椅子ばかり扱っているわけではありません。「椅子と」の「と」の後に、お客様それぞれの世界を広げてもらおうと考えた名前だと店主の服部さんが教えてくれました。

「デンマークは国土も狭く資源も豊かではありません。当時は戦争で疲弊していたし、外貨を獲得し経済を盛り上げるための国策として『工業デザイン』に力を入れたんです。学校を整備するなどし、デザインで稼ごうとしたんですね。だから、有名な工業デザイナーがたくさん育ちました。でも、うまく言えませんがこの時代の北欧家具はどこか、“ゆるい”んです。工業化と言っても、今ほどの設備もノウハウもありません。だから、随所に職人が手でフォローしていた跡が見られるし、贅沢だなぁと思う無駄もある。構造的にも完璧ではないんです。例えば、北欧ヴィンテージデザインの特徴に『細くて長い脚』があります。当然、重いものをのせれば耐えられなくなります。椅子の中には、見る人がみれば『そりゃあ壊れるやろ!』というデザインのものもあります。でも、そういうものに限って美しい」

北欧ヴィンテージ家具の特徴、長くて細い脚の家具達。

後ろからの補強がない背もたれは、力が加わると壊れるおそれも。
しかし、その華奢で美しいデザインが人気だそう。

1階の壁面には椅子が美しく並んでいる。
2万円台のものなど、比較的購入しやすいものが多い。

店主の服部さんは小さなお子様をもつ主婦でもある。

「北欧のヴィンテージ家具を選ぶ時は、そういうこと全てを知って選んで欲しいと思います。安全性や耐荷重が必要なら、店の人と相談してそれに見合ったものを選ばないと、後でストレスになります。デザイン重視だと言うなら、構造のどこが弱点なのかを知って大切に扱って欲しい。それが、『ヴィンテージ』と暮らす楽しさでもあるんです。大切に思えば、日々の所作だって変ってきますよ」。 こちらのお店では、修理・修復も行っているので、相談次第で弱点の補強や手入れが省ける加工などもしてくれるのだそうです。

2階にある居心地抜群のカフェ。周囲を工場や倉庫に囲まれているにもかかわらず、ここでお茶を飲むためだけに訪れるお客様も少なくない。

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