今回は「時間」を切り口に、住宅の設計について考えてみましょう。ひとくちに「時間」と言っても、それは「朝から晩まで」の一日単位を指すこともあれば、「子どもの成長に合わせた」年単位、「世代交代を視野に入れた」数十年単位と様々な種類があります。

これから設計実例を交えながら、「一日の変化」「子どもの成長」「世代交代」という3つの時間テーマを切り口にして住宅設計について紹介していきましょう。


一日の変化
以前、設計の依頼に来られたAさんは「朝起きて、昼は仕事で外出、夜帰宅後に食事をとり、ゆっくりしてから床に入る」のが主な行動パターンでした。そんなAさんの暮らしをより快適にするために、寝室とダイニングを“東向き”に設けることにしました。朝日を感じながら目を覚まし、朝食をとれば気持ちの良い一日の始まりになるからです。また、日中ほとんど家にいない生活習慣から、リビングは一般的に良いとされている“南向き”よりも、「見晴らしの良さ」を優先させて配置しました。さらに、ないがしろにされがちなトイレにも注目しました。ここは一人で物思いに耽る事ができる、貴重な空間です。朝はこれからの行動の予定を立て、夜は一日の振り返りができるよう、空間は少し大きめにしたところ「“瞑想トイレ”で、気持ちにゆとりができた」と、大変喜んで頂けました。
このように、一日の行動にあわせた設計を行うことで、各々のスペースがより快適な空間となりうるのです。
子どもの成長
友人でもあったBさんからは「3人の子供がまだ小さいので、いつかはそれぞれに子供部屋を与えたいのですが、いつ・どのように用意すれば良いでしょうか?」という相談を受けました。この様な子供の成長への対応を聞かれた時は、「子供は常に成長しているので、子供部屋を用意する明確な時期や方法というものはありません。それよりも子供たちが自分の居場所を確保できるようなスペースを、家全体として保有している方が良いでしょう」とアドバイスしています。そこで、Bさんの家では、リビングの隣に大きな開口部で繋げた部屋を設けました。子供達は普段、開口部を空けたまま、リビングで勉強したり、本を読んだりしますが、友達と電話する時などは開口部を閉めることで、思春期の敏感なプライバシーが守ることができる設計になっています。現在は子どもが独立したので、そのリビングとの大きな開口部を空けたまま、お父さんがプラモデルを作って飾る部屋になっているそうです。「廊下を隔てて独立した部屋だったら寂しくて倉庫になっていたよ」と、おっしゃっていました。
このように、子供どもの成長を見据えた設計を行うことで、子供の独立後も快適に活用できる空間が生まれるのです。
世代交代
高齢のCさんからは「今から新築を建てても、将来息子夫婦が住めるような家にできるのでしょうか?」と、ご相談を受けたことがあります。自分が亡くなった後、息子や娘に引き継いでもらう家とはどうあるべきか。その時の流行を追ってしまうと次の世代では時代遅れだと感じ、子供達が新しく自分達の家を建てようとしてしまいます。自分が育った家が建て替えで無くなったり、近所の街並がすっかり変わってしまったりすると、記憶の拠り所が無くなり、実に寂しいものですよね。
では、次世代へと上手く引き継がれる住宅とはどのようなものなのでしょう。私は、世代を超えた住宅とは「どのような家族でありたいか」という家族観が表現されている住宅だと考えています。国の勧める長期優良住宅にあるように、構造やメンテナンス能力を上げた基本性能を満たすことは当然ですが、その住まいを見て「この家の人は、こんな生活を送っているのだろう」と、感じることのできる住まいです。代々家族の記憶を伝えることが、歴史を重ねても古くさくならない住宅を生みだすのではないでしょうか。

では、上記の異なる3種類の時間軸を一つに重ねるにはどうすればよいのでしょうか。一つの住宅として、一日から数十年、常に変化を求めている生活を満足させること・・・。そのためには、抽象的な表現になってしまいますが、変わらない家族観という核を見つめながらも、それぞれの家族としてのあるべき生活習慣が表現されていなければなりません。

既成概念で作られた住宅というのは借りてきた理想の設計に過ぎず、本当に自分自身が求めたものではありません。自分達の生活習慣や家族観を上手く住宅設計に反映させることで、世代を超えた「家」訓として長く存在する住宅ができるのではないでしょうか。


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