前回は一般的な家族構成から、住宅をどの様に考えていくかを述べました。しかし、実際には様々な家族構成があり、一般的な間取りでは収まらないケースもあります。我々建築士のところに、そのような一般的な間取りでは収まらない問題解決策を相談に来られる方も最近増えてきました。今回はこのようにまだまだ一般的ではないけれど、確実に増加傾向にある新しい家族の形態を紹介し、その家族の為の「居心地の良い」住宅を考えたいと思います。
  一般的に家族構成をわけてみると、右記のようになるのではないでしょうか。(細かく言えば、もっと様々な構成があるのでしょうが、ここでは大きく捉えることにします。)

今回も、いくつか新しい家族形態を下記のように挙げてみました。もちろんこの他にもありますが、特に最近増えている形態を紹介したいと思います。

  • 極小核家族
  • 三世帯家族
    (親夫婦(夫の両親)+親夫婦(妻の両親)+子夫婦)
  • 一+二世帯家族

それではそれぞれについて設計のポイントを
見てみましょう。


極小核家族

近年の離婚率上昇による、「親1人と子」という核家族を指しています。母親と子、または父親と子といった、極小核家族とでも呼べる家族構成が増えています。極小核家族の場合、仕事と家事、育児すべてを1人でするケースがほとんどなので、コミュニケーションを取る時間がどうしても少なくなってしまいがちです。ですから、家庭内では家事動線に工夫を凝らし、常にお互いの様子が把握できることが重要になります。例えば、思い切ってお風呂場とキッチンをつなぐ窓を設けるなどがあります。そうすると、限りある一緒にいる時間の中でも密なコミュニケーションが生まれ易くなり、効果的に家族関係を築けるのではないでしょうか。


三世帯家族

少子化によって、一人っ子同士の夫婦が珍しくなくなっています。そうすると今度は二世帯を超え、夫婦それぞれの両親との三世帯という新しい家族構成が増えてきました。一般的に三世帯というと、入り口が3つ必要になります。しかし、単に入り口の数を増やすのではなく、玄関を土間の様に設えることで、三世帯ならではのイベントスペースにすることもできます。多世帯が自由に出入りし、行きかう賑やかなスペースをつくることで、遠慮しがちに気を遣うのではなく、逆に世帯間交流を楽しめる空間と考えてみてはいかがでしょうか。


一+二世帯家族

高齢化が進むことで自宅介護が必要になり、介助人等の他人が出入りする頻度も高くなります。そうなると、プライベートであるはずの空間がパブリックな状態になりますので、普段は個室のように使い、介助の方が来るときには仕切りを動かし、空間を広く使えるようなどの工夫が必要になります。初めから常にパブリックな空間では落ち着かないでしょう。寝殿造りの帳台(※1)で見られるような、緩やかな境界を用いて精神的なプライバシーを確保するのも、このタイプでは必要となります。

※1
平安・鎌倉時代において寝殿造り住宅の調度の一つで、低い台の四隅に柱を立て、天井を張り、四面に薄いとばり(絹)を垂らしたもの。


この他にも、グループハウスのような他人と暮らすことを見据えた住宅設計など、現在ではまだ一般的でない家族形態も、少子高齢化等の社会状況の変化により今後増加すると予想されます。今後は多種多様な暮らし方に合わせた住宅設計を考える必要が出てきそうです。

これらの家族形態では、特に「家族間のつながり」を深めることが重要です。そのための仕掛けを作り、よりコミュニケーションを深めることが、精神的に「居心地の良い」住宅を生み出すのではないでしょうか。


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